こんにちは!中小企業診断士のカズユキです。
今回は間接部門の成果を数値化しにくい業務の目標設定・管理のポイントをお伝えします。
前回は総務部門や経理部門といった具体的な間接部門を取り上げて、それぞれの部門における目標設定について、事例を交えながら解説しました。
改めて各部門の役割を認識することで、目指すべき目標も見えやすくなったかと思います。
今回も人事部門や法務部門といった具体的な部署を取り上げて、実際に参考になる目標を紹介します。
人事部門の役割
人事部門は「ヒト、モノ、カネ・情報」という経営資源のなかで、最も重要とされる「ヒト」を管理します。
企業を支える人材の獲得や育成・管理を引き受けているため、企業の心臓部といってもよいでしょう。具体的な役割について説明します。
人材の採用と教育
まず自社に必要な人材の確保と、自社が求める人材に育成する役割があります。
近年労働力不足の観点から、従業員の能力をいかに開発していくかに注目が集まっています。
人材の能力開発は組織の成長に大きな影響を与えます。
近年、外部環境の変化がますます早くなっているため、経営層からも非常に期待されている機能といえるでしょう。
各種人事労務手続き
採用以外にも勤務状況や配置といった管理、社会保険手続きといった雇用をする上で最も基礎となる業務についても人事部門が行います。
特に労務関係の手続きは複雑なので、専門家と連携して進めていく必要があります。
そのため人事労務においての理解力が求められます。
また福利厚生面についても従業員満足を高めるために、人事部門が最近のトレンドを調査して、自社に反映させていきます。
人事制度設計と運用
人事部門では評価制度・賃金制度・昇給昇格制度といった従業員が最も関心のある処遇を管理します。
企業の規模が大きくなると制度が複雑になるため非常に神経を使います。
人事制度は従業員のモチベーションを高めることもあれば、下げることもあります。
モチベーションは会社の生産性に大きな影響を及ぼすため、公平で現実に即した制度の構築をします。
このように人事部門では、ヒトの採用・配置・育成・評価・報酬を管理しています。
従業員は「社内顧客」とも表現されており、従業員満足を高めて組織力を向上させる重要な役割を担っています。
法務部門の役割
続いて法務部門の役割についても確認しておきます。
会社によっては兼任していたり、担当者が一人だったりすることもありますが、ここでは各部門がわかれていることを想定して考えます。
取引先との契約書類等を確認
法務部のメインの仕事内容として最初に挙げられるのは、取引先との契約書類等を確認する業務です。
企業は、取引で契約を交わす際、売買契約書や業務委託契約書など、様々な契約書を作成します。
この時、後のトラブルを防ぐため、事前に契約書の内容に問題がないかを十分確認する必要があります。
「どのような条件で契約を結ぶのか」
「トラブルが起こった際にはどのように対処すべきか」
「契約内容を変えたい場合はどうすればいいのか」
など、自社にとって不利な契約を結んでしまうことがないよう厳重な精査をします。
社内規定を整備
社内規定を整備する際、内容に問題がないかどうか、チェックすることも法務部の業務です。
企業内には、就業規則や賃金規定、服務規程などの規定が存在します。
これらの規定は、企業が独自に定めるものですが、労働法などの法律に抵触する内容を定めてはいけません。
社外に向けて事業の健全さを主張できるか、従業員の正当な権利が守られているか、法務の見識を用いて社内規定を整備します。
法律に関する社内相談・対応
法律に関する社内相談窓口として社員の質問に答えることも法務部の業務です。
たとえば、事業を進める際に、法的に問題ないかどうか心配に思うことがあります。
そんなとき、法務部が社内相談窓口となり、実行できるかどうか判断します。
また子会社の設立や株式の発行や分割など、必要な法的手続きを行うのも法務部の業務です。
さらに顧客からクレームを受けた場合や取引先とのあいだで紛争が起こった場合は、企業の法務部が訴訟対応などを行います。
企業の内情をとりまとめ現状を把握し、専門的な法律の知識を用いて、企業が不利益を被ることがないよう対処するのが法務の仕事です。
このように法務部門の業務は社内外のリスクを防ぐ重要な役割を担っています。
税理士や経営陣と議論ができる知識や、社内に浸透させるためのコミュニケーション能力などが求められます。
人事部門の具体的目標
人事部門は会社に必要な人材を採用し育成することが求められているため、目標についてもそれを達成するものが望ましいです。
人に関することは定性的な内容が多くなりやすいですが、ここでは定量化できる目標事例を挙げていきます。
採用人数
まず挙げられるのが採用人数です。
現在の人的リソースを見て、必要な人材がどれくらいかを算出して達成基準を決めていきます。
また内定を出した学生に向けて、確実に入社してもらえるようフォローを行うなど、内定後の離脱防止も目標として挙げられます。
さらに入社後の定着率といった目標も、組織力向上として必要になると思います。
もし社内でモチベーションなどの調査しているようなことがあれば、調査結果の数値についても目標として挙げられます。
採用コスト削減
次に採用コストの削減が挙げられます。
マイナビが行った2017年度の調査では、一人当たりの採用コストの平均は、約50万円程度が相場であると報告されています。
このように採用するためにかなりのコストを使用していますので、有効な投資になっているかを確認しておく必要があります。
そのためにも目標として掲げることで、関心を高めることができます。
採用コストは主に外部に支払う求人広告費、人材紹介費、会社説明会などの会場費、会社案内パンフレットなどの採用ツール製作費などが挙げられます。
注意点は経費削減を優先するあまりに、直接部門の活動を妨げないことです。
削減することが目標に上がると、本来の目的である自社に必要な人材の確保が困難になることがあります。
お金をかけるべきところにはかけて、効果の少ないところにはお金をかけないよう管理することを心がけましょう。
研修・人事制度見直し
従業員が意欲を持って働くためには公平・公正な処遇が不可欠です。
多くの会社では人事制度を導入していますが、モチベーションを高める内容になっているかどうか定期的な見直しは必要です。
いつの間にか現状に沿わない内容になっていることもあります。
目標の着眼点としては、評価内容をより業務に関係がある内容へ修正する、運用がスムーズになるよう効率的な方法を検討するといったことが挙げられます。
また社内教育では研修を実施することも目標として挙げられます。
効果を測定することが理想ですが、まずは回数を目標に掲げると客観的に達成度の判断がしやすいです。
法務部門の具体的目標
次に法務部門について具体的な目標を上げていきます。
法務部門では突発的な事案に対応するなど、適正な目標設定が難しいです。
必ずしも数値目標を定める必要はありませんが、プロセスも含めて評価できるよう上司は部下の仕事ぶりをチェックして記録を残しておいてください。
対応する業務の内容や処理スピード
定量的な目標にするためには、処理する業務内容やスピードが挙げられます。
たとえば契約審査・紛争処理のスピード・件数を目標にすれば、客観的な達成の判断が見えやすいです。
目標設定をする際は、過去の実績を参考に想定される業務の難易度をランク付けします。
比較的社歴の浅い社員には難易度の難しい業務に何件挑戦するかを目標にします。
また難易度ごとにかかる処理スピードを数値化することで、処理速度向上の目標にすることもできます。
たとえば「難易度Aの案件の処理を◯日以内にする」など明確な数値を示すことができます。
社内研修の実施
次に社内研修の実施回数や効果が目標設定として挙げられます。
2022年4月1日より「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が中小企業も義務化されることとなり、社内のコンプライアンス遵守はますます必要となっています。
法務部の役割としては、職場環境向上のために、どのような行為が法令違反となるか社内に周知される必要があります。
社員向けの研修実施回数・担当回数研修は数値化しやすく、目標として立てやすいでしょう。
ただし研修の目的は回数ではなく効果なので、理解されているかどうかを検証しておくと良いでしょう。
具体的には研修後のフォローアップで理解度を確認し数値化できれば、それを目標とすることもできます。
サンクスカードの導入
サンクスカードとは他部門からの応援や協力があった場合に、感謝を表す形で渡すカードです。
近年はカードのデジタル化も進んでいまが、直接物的なカードを渡すことによってメールやチャットでは味わえない満足感を与えることができます。
間接部門では目標の数値化が難しいことが多いため、サンクスカードにより他部署への貢献度合いを数値化させ、目標値を設定する事例が増えています。
実際にはオリエンタルランドやリッツカールトンといった企業で導入されています。
ただし運用の手間が増えることもあり、協力を得られず断念したケースもあります。
もし導入を検討する場合は以下の点に注意してください。
主旨や目的の共有化
まず、なぜサンクスカードを導入するのか、主旨や目的を共有することが重要です。
サンクスカードを導入することで会社がどの様な変化に期待しているのか、効果としてどのようなことがあるかを理解してもらうことで、積極的に参加する基盤を構築していきます。
同時に、運用手順などをマニュアル化し周知することも忘れずに実施していきましょう。
経営層の積極的な参加
サンクスカードの運用には経営層の積極的な参加が必要です。
サンクスカードは社員だけが対象ではありません。全員参加を原則に進めて下さい。
社員にとって経営層や上司からのサンクスカードは非常にモチベーションが上がります。
経営層が積極的に参加しサンクスカードを送ることで、風土への定着化を促進していきましょう。
従業員の負担軽減
サンクスカードは運用に従業員の負担が大きくなると形骸化しがちです。
できる限り工数のかからない方法で運用します。
たとえば、どのような言葉を贈るべきかわからない人のために、例文を示しておくと良いでしょう。
また記載項目は最低限必要な「所属(差出人・相手)」「氏名(差出人・相手)」「内容」に留めましょう。
図表で示した例ですが、最低限の文言にとどめています。
導入当初から質の高さを求めると浸透しづらくなりますので、初めは60点程度からスタートしましょう。
今回も前回に続いて具体的な間接部門を挙げて、役割の再確認と具体的な目標について解説いたしました。
定量的な目標設定にこだわることで、モチベーションを下げることもあります。
なぜ目標設定が必要なのかを考えて、目的意識を持って取り組んでください。