こんにちは!中小企業診断士のカズユキです。
このブログでは、中小企業診断士の実務や試験の知識等を発信しています。
今回は財務・会計の「収益性分析」です。
収益性分析とは
収益性分析とは企業が利益をあげる能力があるかを分析することです。
会社はさまざまな価値を顧客に提供して売上を上げます。
価値を提供するためには投資が必要です。
資金を調達して機械や設備等に投資します。
原料や商品を仕入れるためのコストもかかります。
また事業に協力してくれる人を雇うと人件費がかかります。
売上からこのような支出を支払った後に利益が残ります。
持続的に会社を経営するためには、利益を出す必要があります。
できれば少ない投資で利益を上げたいですよね。
会社の経営している人のほとんど全員がそう考えています。
効率的に利益を上げることができれば、収益性が高いといえます。
収益性の基本は「資本利益率」
収益性の基本は「投資額と回収額を見ること」です。
よって、収益性を測定するには、投下した資本に対して、リターンである利益の割合を見ることが出発点です。
投資した資本に対する利益の割合を、「資本利益率」といいます。
資本利益率の基本的な式は、
資本利益率 = 利益 ÷ 資本×100
です。
この式の利益は損益計算書を参考にします。
利益にもいろいろありますが、純粋な儲けは「当期純利益」で示されます。
下記の損益計算書では「120」が該当します。
また資本は貸借対照表から取得します。
下の貸借対照表では資産合計の「331」が該当します。
貸借対照表では資産の部と「負債の部+純利益の部」の合計額が一致します。
よって負債・純資産合計を用いても問題ありません。
これらを計算すると、総資本利益率は
純利益(120)÷総資本(331)×100≒36.3%
と導くことができます。
資本利益率が高いというのは簡単に言うと「少ない投資で利益が出ている」ということです。
家にある機材でYouTubeの動画を撮影してアップしたら、たくさん収入が入ったような感じです。
時間をかけずに機材を購入せずに利益を得ることができるなんて(^^)
まさに収益性が高いですね!
逆に最新鋭の設備と動画編集ソフトを入れて、何十時間もかけて編集したのに全然再生数が伸びないこともあります(^^;)
この場合は投下した資本(時間やお金)に対して利益が低いので資本利益率が低いといえます。
資本利益率の種類
利益や資本には様々な種類があります。
種類があれば当然資本利益率の呼び名や計算方法も違います。
代表的な資本利益率を紹介します。
総資本経常利益率
「総資本経常利益率」は名前の通りで「持っているすべての資本からどれだけ経常利益をもたらしたか」という計算式です。
式は、
総資本経常利益率 = 経常利益 ÷ 総資本×100
です。
総資本は、総資産と同じ意味です。
総資本は貸借対照表を参考にしてください。
先ほどの事例の貸借対照表では「331」でしたね。
また経常利益はサンプルの損益計算書から「170」であることがわかります。
これらを計算すると、
経常利益(170)÷総資本(331)×100≒51.4%
と計算できます。
経常利益とは「企業が通常業務の中で得た利益のこと」です。
本業で設けた利益である「営業利益」に、利息や家賃収入などの「営業外収益」を足して、返済時にかかる金利等の「営業外費用」を引くと計算されます。
総資本経常利益率は、より少ない資産で、より多くの利益を獲得できれば高くなります。
つまり、会社の全ての資産を稼動することで、生み出すことのできる儲けが総資本経常利益率です。
総資本事業利益率
先ほどの総資本経常利益率では、資金調達方法によっては利息が発生してしまうので、それらの影響を受けてしまいます。
総資本事業利益率では借入金などから生じる支払利息などの影響を含めず、より厳密に資金調達方法によらない企業の収益性を求めるときに用います。
総資本事業利益率の式は、
総資本事業利益率=事業利益 ÷ 総資本×100
です。
ここで一つの問題が発生します。
利益は損益計算書に記載されていますが、
「損益計算書を探しても事業利益がないんですけど・・・」
となりませんでしたか?
実は、事業利益は損益計算書に記載されている数値を基にして計算する必要があります。
事業利益を求める式は、
事業利益=営業利益+受取利息・配当金+有価証券利息
です。
経常利益と比較すると事業利益では支払利息などの資金調達から生じた金融費用が含みません。
これにより総資本事業利益率は、より厳密に企業の資金調達によらない収益性を表すことができます。
ちなみに、総資本事業利益率は、米国では ROA(Return On Asset)と呼ばれます。
Asset(アセット) は資産という意味です。
経営資本営業利益率
今度は「経営資本営業利益率」です。
経営資本営業利益率は、経営活動で使用されている資本から、どれぐらいの営業利益を得ているかを表す指標です。
経営資本営業利益率の式は、
経営資本営業利益率=営業利益 ÷ 経営資本×100
となります。
先ほどの指標と違うところは総資本ではなく「経営資本」となっているところです。
これも貸借対照表を見てもどこにも載っていません。
先ほどの事業利益と同様に計算する必要があります。
経営資本とは「資産のうち本業で使用されていないものを除いたもの」です。
資産の中には建設途中の建物や投資目的の有価証券、繰延資産のような特殊な資産が含まれています。
繰延資産など、資産の説明は下記のブログを参考にしてください。
経営資本の求め方は、
経営資本=総資産ー建設仮勘定ー投資その他の資産ー繰延資産
です。
サンプルの貸借対照表には、投資その他の資産「長期貸付金」と繰延資産「創立費」がありますので計算式は、
経営資本=総資産(331)ー投資その他の資産(2)ー繰延資産(1)=328
と計算することができます。
営業利益は損益計算書より「220」ですので経営資本営業利益率は、
経営資本営業利益率=営業利益(220) ÷ 経営資本×(328)×100=67.1%
です。
経営資本は本業で使用する資本、営業利益は本業で得た儲けなので、経営資本営業利益率は「本業で使用されている資産から生み出される儲け」を表します。
自己資本利益率
次の「自己資本利益率」は、株主から見たときの収益性を表す指標です。
自己資本利益率の式は、
自己資本利益率=当期純利益 ÷ 自己資本×100
です。
また、自己資本は貸借対照表の純資産の部から、新株予約権を除いたものです。
その他、少数株主持分も自己資本として計上しません。
自己資本利益率は、米国ではROE Return On Equity )と呼ばれます。
Equity(エクイティ) は自己資本という意味です。
株主の立場から見ると、税引後利益が大きくなれば良いことがあります。
わかりやすいメリットは配当が大きくなることです。
出資している会社が儲かれば、株主にも還元されます。
また内部留保が増加すると会社が強くなります。
自己資本が増加し、理論上の株価が上昇します。
自己資本利益率の考え方も同じで、少ない投資額で大きな税引後利益が得られればその企業の収益性は高いということです。
サンプルで計算してみます。
まずは自己資本ですが
自己資本=純資産(331)ー新株予約権(1)=330
と計算できます。
よって自己資本利益率は、
自己資本利益率=当期純利益(120) ÷ 自己資本(330)×100≒36.4%
です。
資本利益率を分解する
資本利益率を求めることで、自社の前期との比較や、他社との比較ができるようになります。
ここから実際にどの部分が良いのか悪いのかを分析する場合は、もう少し掘り下げる必要があります。
これまで解説した資本利益率の式を分解すると、もう少し具体的な部分が明らかになってきます。
資本利益率は、
資本利益率 = 利益 ÷ 資本×100
ですが、皆さんが良く知っている「売上高」に関連させると、身近な指標になります。
まず割り算を掛け算に変換します。
資本利益率 =利益×(1/資本)
資本利益率を売上高で分解すると
資本利益率 =(利益/売上高) ×(売上高/資本)×100
となります。
「利益÷売上高」は売上高利益率(%)です。
「売上高÷資本」は資本回転率(回)です。
資本回転率の単位は「回」なので、ご注意ください。
つまり、売上高利益率を高めるか、資本回転率を高めることで、資本利益率を高めることができるとわかります。
売上高利益率は売上高の中に利益がどれだけあるかを示す指標です。
一般的に利益率と呼ばれている指標なので、とてもなじみのある指標ですね(^^)
資本回転率は、一定期間の間に資本が売上によって何回転するかを表します。
この指標は回転が大きいほうが良いといわれています。
分母である「資本」が少ない状態で、多くの「売上高」を挙げることができれば効率的です。
事例の貸借対照表と損益計算書から計算してみます。
純益は120、総資本は331、売上高が2,000なので
売上高総利益=純利益(120)÷売上高(2,000)×100=6.0%
資本回転率=売上高(2,000)÷総資本(331)≒6.0回
また自己資本利益率についても以下のように分解できます。
まずは割り算を掛け算に変換します。
自己資本利益率=当期純利益 ×(1/自己資本)×100
ここに売上高と総資本を入れて分解してみます。
自己資本利益率=(当期純利益/売上高)×(売上高/総資本)×(総資本/自己資本)
当期純利益÷売上高は「売上高当期純利益率」
売上高÷総資本は「総資本回転率」
総資本÷自己資本は「財務レバレッジ」
です。
つまり、
自己資本利益率= 売上高当期純利益率 X 総資本回転率 X 財務レバレッジ
売上高当期純利益は売上高の中にどれだけ当期純利益があったかの指標です。
財務レバレッジは、安全性分析で学習する「自己資本比率」を逆数にしたものです。
レバレッジというのは「てこ」という意味です。
借金をすれば財務レバレッジは大きくなります。
この数値が大きいことは、借り入れによって他人資本の力でレバレッジをかけて利益を得ていることになります。
借り入れが多いと少ない自己資本で大きな事業ができる反面、失敗した時に借金が返せないのでリスクが高いといえます。
収益性だけでなく安全性とのバランスをとっていく必要があります。
今回は収益性分析の土台となる考え方「資本利益率」についてサンプルで計算しながら解説しました。
しかし資本と利益の関係だけでは、収益性が低下した時にどこに問題があるか判断が難しいです。
次回からはもう一段階掘り下げていきます。
資本利益率を分解していくと、様々なことが見えてきます。
また次回も見てください!