こんにちは!中小企業診断士のカズユキです。
前回と前々回からに続き、人事制度を構築する3つの制度を解説します。
人事制度には3つの制度があります。
- 等級制度
- 評価制度
- 賃金制度
これらを構築することで、公平性や納得性の高い制度が仕上がります。
賃金制度とは
賃金制度とは「賃金の構成や昇給のルールを決めたもの」です。
賃金には、いろんな要素で構成されています。
「基本給」と呼ばれる、給料の基礎となるものから、「役職手当」「家族手当」「住宅手当」「通勤手当」「精勤手当」といったものがあります。
呼び方は会社によってちがいますが、考え方はほとんど同じです。
また、給与改定時にどういった昇給をしていくのかを決めておきます。
この昇給させるためのルールに「等級制度」や「評価制度」が関係します。
例えば昇給額について考えると、一般的に平社員よりも役職者のほうが多いです。
これを等級でわけて考えます。
そして一年間の頑張りを「評価」で数値化することで、どれくらい昇給させるのかを決定します。
このように賃金制度を構築するためには、等級や評価といった他の制度を整備しなくてはなりません。
基本的な給与の構成や手当・昇給については過去もブログを参考にしてください。
ここでは賃金の水準や昇給制度の構築について解説します。
賃金の水準についての考え方
賃金制度で難しいのが、どれくらいの水準が妥当かを判断することです。
その時にどういったことを考えて決定するか、参考にすべきデータが3つあります。
標準生計費(生活に必要なお金で考える)
一つ目は、「標準生計費」を活用します。
標準生計費とは生活に必要なお金が月額ベースでどれくらいなのかを分析しているデータです。
これは公務員の給与を決定する目的で、毎年人事院が政令都市における標準生計費を調査しています。
標準生計費では年齢と共に、金額が変わっていきます。
家族構成が変化することで、必要なお金が変わっていくことを考慮に入れているからです。
家族構成の変化にも対応しています。
このデータで表されている金額を給与水準に使用する時には、所得税といった税金や社会保険料等を考慮しなくてはいけません。
ご存知の通り、給料は税金や保険料を源泉徴収された状態で支給されます。
これを「非消費支出」といいます。
私は標準生計費×1.35にして使用しています。
例えば、標準生計費が10万円であれば、給与水準は13.5万円と変換します。
水準を決める注意点としては、標準生計費の水準と同じ金額だと生活ぎりぎりになってしまうことです。
生きていくうえで娯楽を楽しむことも必要ですので、多少余裕のある生活ができることが望ましいです。
私は標準生計費で示されてる金額から2割~5割の間に入っていることをおすすめしています。
先ほどの10万円の例で示すと、
2割増「10×1.35×1.2=16.2万円」
5割増「10×1.35×1.5=20.25万円」
1か月の給料は16~20万円の間に入っていることを水準としています。
これに現在の給料をプロットして表にすることで、水準が満たされているかを確認します。
ちなみにインターネットでは詳しい情報が手に入りませんが、本であれば細かいデータを入手することができます。
基本構造賃金(業界水準から考える)
二つ目は、厚生労働省が毎年公表している基本構造賃金のデータ活用です。
基本構造賃金データは、労働者の性別や学歴といった属性と賃金の水準を明らかにしたものです。
このデータを活用すれば、現状の賃金が標準的なものと比較して高いのか低いのかを判断することができます。
経営者は自分の会社の給料がどれくらいの水準なのか非常に興味があります。
実態調査なので、近い業種で同程度の規模のデータがあれば、参考にできます。
細かいデータは政府統計ポータルサイト「e-Stat」が良いです。
特に参考になるデータとしては「企業規模別」や「産業別」といったところです。
データの使用方法としては、「きまって支給する現金給与額」をそのまま活用するよりかは、賞与を考慮した算出がおすすめです。
つまり「きまって支給する現金給与額」に「年間賞与その他特別給与額」を加えて「月額平均支給額」を算出します。
式は以下の通りです。
月額平均支給額=(「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」)÷12
具体例で挙げると、
「きまって支給する現金給与額」=10万円
「年間賞与その他特別給与額」=30万円
月額平均支給額=(10万円×12+30)÷12=12.5万円
ざっくりと年齢別で区切られていますので、上記のような計算をしていくことで水準が明らかになります。
後は標準生計費と同じく現在の賃金と比較します。
最低賃金(法令に準じているかの確認)
三つ目として厚生労働省が地域性を考慮して都道府県ごとに公表している最低賃金です。
これは法令順守なので、最低限クリアしなければなりません。
アルバイトやパートさんであれば、時給比較ですぐにわかりますが、月給制になっている社員は比較するためには計算が必要です。
そのため、いつの間にか最低賃金を下回っていることがあります。
2021年では全国加重平均が930円と、前年よりも28円アップしています。
コロナが収束し始めているとはいえ、かなりのアップです。
月給と比較する場合は、月の平均労働時間を把握する必要があります。
例えば、月の労働時間が168時間だった場合は、
930円×168時間=156,240円
となります。
以上の水準をグラフに表し、自社の実データをプロットすれば、水準が見えてくると思います。
さらにグラフ上に自社の目指すべき水準を描けば、将来の方向性が見えてくるでしょう。
個別の賃金を決めるには
賃金水準を決めた後は、個別賃金を決めます。
その時に2つの原則について述べます。
公平性を保つ
ひとつ目は公平性の原則です。
公平にするためには、どのように賃金を決めていけばよいでしょうか?
ポイントは
- 責任が重い役割の人を高くする
- 会社の貢献度が高い人を高くする
この2つです。
ここでこれまで解説した「等級制度」が関係してきます。
等級は会社におけるランクです。
等級が高くなるにつれて、重要な役割を担います。
重要な役割を担うということは会社への貢献度が高いです。
また部署によっても貢献度が違います。
同じ課長職であっても、営業と総務では貢献度が異なります。
賃金の最も基本とされる「基本給」は、こうした役割や貢献度を考慮します。
例を挙げると以下のようになります。
この会社では、製造部の貢献度が高いと判断しています。
しかし判定する時に「何を基準にすればよいのか」と迷うことがあります。
経営者でも判断することが難しいです。
社員の処遇に関することなので、安易に判定することはできません。
これを判断するために職務評価をすることがあります。
職務評価とは、「要素ごとに難易度を判定して、等級や部署の貢献度を明らかにするもの」です。
要素は「専門知識」「技能」「身体的負担」といった細かい要素を数値化します。
出てきた結果から、経営者がどこを重視しているのかを明らかにします。
昇給の考え方
次に昇給する時の考え方について解説します。
経営者は限られた原資をどのように分配すればよいか頭を悩ませています。
方向性としては給与を決めるときと同じです。
つまり、
- 重要な役割や責任が重い人に分配したい
- 良く貢献してくれている人に分配したい
ここで必要になってくるのが「等級制度」と「評価制度」です。
等級が高い人は役割や責任が重い人です。
評価が高い人は貢献度が高い人です。
経営者は一人一人の働きぶりを直接見なくても、こうした制度によって判断することができます。
これを下記のようにマトリックス図にすることで、昇給額を決めることができます。
縦軸の等級では「職階」が上がると、昇給額も高くなります。
一番下の「S1」を基準として倍率をかけることで調整します。
横軸は評価によって昇給額が変わるようになっています。
上記の数値は一例です。
実際にどれくらいの差をつけるかは、よく検討する必要があります。
注意点としては、この額を確定させないほうが良いです。
業績が安定しているときは、昇給させることができますが、厳しい結果になることもあります。
そうなった場合のために、昇給額は業績によって変動するようにします。
例えば「S1のB評価」の昇給額は表の通り2,000円にしていますが、業績が振るわなかった場合は0.9倍して1,800円とします。
人件費は会社の費用の大部分締めます。
売上高人件費率を一定の状態に保つことで、経営を安定させます。
最後に
今回は人事制度の処遇に関わる「賃金制度」について解説しました。
モチベーション管理では給料以外の「やりがい」を刺激することで、意欲を向上させることができるとしています。
しかし処遇に全く反映されなければ、持続してモチベーションを高く保つことはできません。
処遇は有限なので、昇給できる額には限界があります。
それを納得性の高い分配にするためには、人事制度の構築が必要です。
中小企業診断士試験では、モチベーションや賃金制度といった内容があります。
こういったことを勉強することで、いかにして組織を継続的に運営していくことができるかを学ぶことができます。
私は診断士を通じて触れることができて良かったと感じています。
実務においては、こうした知識が下地となって、大いに役に立っています。
どんな業界においても約たつ知識なので、ぜひ挑戦してみてください!