こんにちは!中小企業診断士のカズユキです。
ここ何回かは原価計算について解説しています。
重要な論点ですので、しばらくは続けていきます。
実は中小企業診断士試験の勉強を振り返ることで、改めて非常に参考になっています。
ですので、しばらくはこのような形で解説ブログを続けていきます(^^)
今回は原価計算の中の論点である「標準原価計算」について解説します。
標準原価計算では計算問題が出題されます。
しっかり対策しておけば、計算自体は簡単なので十分対応することができます。
それでは解説を始めていきます!
標準原価計算とは
標準原価計算は、あらかじめ製品の製造にかかる標準的な原価を設定しておき、原価管理を行う方法です。
標準を設定しておき、実際にかかった原価と比較します。
実際にかかった原価は「実際原価計算」と呼ばれます。
原価差異が発生した原因を分析することで、原価の改善活動を行うことができます。
つまり標準原価計算を行えば、原価管理のPDCAサイクルを回すことができます。
- Plan:製品1個当たりの標準的な原価を設定
- Do:製品を製造して実際原価を計算
- Check:標準原価と実際原価を比較
- Action:原価低減を検討・実行
なんだかんだですが、PDCAをうまく回している会社が生き残る可能性が高いです。
けっこうこういった改善活動がうまくできていない会社が多いです。
原価計算の手順
次は標準原価計算の具体的な手順を解説します。
手順は以下の通りで進みます。
PDCAのどの部分かも示します。
- 原価標準の設定(Plan)
- 標準原価の計算(Do)
- 実際原価の計算(Do)
- 標準原価差異の計算(Check)
- 原価差異の分析(Check)
要するに「だいたいこれぐらいの原価にしたい」という標準を設定して、実際の原価と比較し、なぜ差が起きたのかを分析するという感じです。
ひとつずつ実例を挙げて解説します。
原価標準の設定(Plan)
最初に、製品1 単位あたりの標準的な原価である 「原価標準」を設定します。
原価標準を設定するには過去のデータを参考にすることが多いです。
原価標準は、材料費、労務費、製造間接費について別々に設定 していきます。
設定した原価標準は、図のような標準原価カードに記入します。
直接材料費
まず直接材料費の製品1単位を製造するのに必要な材料の標準消費量を決定します。
図では標準的な消費量を4kgにしています。
さらに、材料の標準的な価格である標準単価を掛けることで、標準材料費を設定します。
図では標準単価を1,000円/kgにしています。
つまり標準的な直接材料費は、
標準単価×標準消費量=1,000円/kg×4kg
=4,000円
と計算されます。
直接労務費
直接労務費では製品1単位を製造するのに必要な工員の標準時間を決定します。
図では標準時間を2時間にしています。
そして工員の平均的な賃率である標準賃率を設定します。
図では標準賃率は1,200円/時間です。
つまり時給1,200円ですね。
あとは時給と標準時間を掛ければ、標準的な直接労務費を設定できます。
直接労務費=標準賃率×標準時間=1,200円/時間×2時間
=2,400円
と計算されます。
製造間接費
製造間接費の求め方は、
- 1ヶ月間に発生する標準的な製造間接費の総額を求める
- 製造間接費の総額を、1ヶ月間の操業時間で割る
要するに1時間あたりの製造間接費を明らかにします。
これが標準配賦率です。
後は標準配賦率に製品 1 単位を製造するのに作業時間を掛けることで、標準製造間接費を求めることができます。
つまり求める式は、
製造間接費=標準配賦率×標準時間
で計算します。
図からは標準配賦率が700円/時間、標準時間は2時間なので1,400円と計算できます。
これで費目別に標準を設定できました。
後は標準材料費、標準労務費、標準製造間接費を合計することで、原価標準を設定することができます。
合計すると標準原価は7,800円になりました。
これで製品1単位当たりの狙いたい原価が計算されました。
ちなみにこれらの手順は、製品を製造する前に行うことに注意してください。
後はどれくらい製品を生産されたかを明らかにします、
生産数と標準原価を掛け合わせれば、ある期間の標準的な原価を計算できます。
標準原価の計算(Do)
次の手順は、標準原価の計算です。
先ほど求めた「標準原価カード」を使用します。
標準原価計算では、
原価標準×当期に投入した生産量
で計算することができます。
例題として
- 期首仕掛品 20個
- 完成品 90個
- 期末仕掛品 40個
- 仕掛品の進捗度 50%
といった数値で求めます。
当期の投入量を求めなければなりませんので、ボックス図を使用します。
基本は「当期投入=完成品+期末仕掛品ー期首仕掛品」で求めることができます。
直接材料費は数値をそのまま代入すればよいです。
よって直接材料費の当期投入は
90個+40個ー20個=110個
直接材料費の当期投入は110個
ちょっと考えないといけないのが直接労務費と製造間接費です。
この二つは加工費なので、仕掛品の進捗度を考慮する必要があります。
進捗している分は個数から除きます。
進捗度が50%なので期首仕掛品は10個、期末仕掛品は20個で計算します。
そうすると直接労務費と製造間接費の投入量は
90個+20個ー10個=100個
投入量が求められたので、これらを掛け算して合計することで標準原価が計算されます。
下の図のように標準原価は820,000円になりました。
1個当たりの原価① | 投入量② | 費用①×② | |
標準直接材料費 | 4,000円 | 110個 | 440,000円 |
標準直接労務費 | 2,400円 | 100個 | 240,000円 |
標準製造間接費 | 1,400円 | 100個 | 140,000円 |
標準原価 | 820,000円 |
ちなみに材料の消費量は110個×4kg=440kg
加工時間は100個×2時間=200時間
でした。
実際原価の計(Do)
次の手順は実際原価の計算です。
実際原価は、
実際の単価×消費量
で算出できます。
まずは実際原価の単価を見ていきます。
私がテキトーに作りましたが(^^;)
実際原価の単価 | |
直接製造費単価(1kg) | 1,100円/kg |
直接労務費単価(1時間) | 1,150円/時間 |
製造間接費単価(1時間) | 600円/時間 |
標準原価と比較してみます。
材料費の単価が高いですが、労務費と間接費が安いですね。
次に消費量も私がテキトーに作ります。
材料消費量と加工時間 | |
材料消費量 | 420kg |
加工時間 | 220時間 |
標準の消費量は440kg、加工時間は200時間でした。
不良品等のロスが少なかったのか材用の消費量は少ないですが、残業が発生したのでしょうかね(^^;)
この2つの数値があれば、実際の原価を計算することができます。
加工時間は直接労務費と製造間接費に使います。
実際原価の単価① | 消費量② | 費用①×② | |
直接材料費 | 1,100円/kg | 420kg | 462,000円 |
直接労務費 | 1,150円/時間 | 220時間 | 253,000円 |
製造間接費 | 600円/時間 | 220時間 | 132,000円 |
実際原価 | 847,000円 |
合計すると847,000 円です。
標準原価差異(Check)
標準原価と実際原価を計算したら、標準原価差異を計算します。これは、標準原価から実際原価を引くことで計算できます。
標準原価① | 実際原価② | 原価差異①ー② | |
直接材料費 | 440,000円 | 462,000円 | -22,000円 |
直接労務費 | 240,000円 | 253,000円 | -13,000円 |
製造間接費 | 140,000円 | 132,000円 | +8,000円 |
合計 | 820,000円 | 847,000円 | -27,000円 |
図の例では、直接材料費が-22,000 円、直接労務費が-13,000 円、製造間接費が+8,000円となり、原価差異の合計は-27,000 円となります。
ここで、原価差異が企業の利益に有利に働く場合は有利差異、利益に不利に働く場合は不利差異と呼ばれます。つまり、符号がプラスであれば有利差異、マイナスであれば不利差異となります。
図の例では、直接材料費と直接労務費が不利差異、製造間接費は有利差異ですが、全体では不利差異でした。
原価差異の分析(check)
最後の手順は、標準原価差異の分析です。
標準原価と実際原価の差を分析します。
標準原価差異の分析では、直接材料費、直接労務費、製造間接費に分けて差異を詳しく分析することにより、原価の低減活動に役立てることができます。
ここでは材料費と労務費の差異分析を解説します。
製造間接費の差異分析の方法もありますが、配賦を考慮する必要があるので複雑です。
また出題の可能性は低いので、省きます。
直接材料費の差異分析
まず、直接材料費の差異分析から見ていきましょう。
直接材料費の差異は、「数量差異」と「価格差異」に分けて考えます。
- 「数量差異」は、材料の消費量による差異です。
標準よりも材料が多く消費された場合は「不利差異」、少なければ「有利差異」です。
- 「価格差異」は、材料価格による差異です。
標準よりも材料価格が高い場合は「不利差異」、安ければ「有利差異」です。
数量差異と価格差異は、ボックス図の面積で求めることができます。
差異分析では、図のようなボックス図を書くと分かりやすいです。
ボックス図を作成するときに大事なことは2つあります。
- 値に関わらず実際を外側、標準を内側に書く
- 価格差異を数量差異よりも優先する
図を見ると価格差異の方が数量差異よりも優先されていることが分かります。
ちなみに価格差異は実際には市場価格の変動によって生じることも多いです。
価格を生産部門ではコントロールすることは難しいです。
一方、数量差異は、効率的な生産を行うことで改善できるため、生産部門がコントロールできます。
よって、面積の計算でも管理が難しい価格差異を先に除去し、その後に管理可能な数量差異を求めます。
補足が多くて話がそれましたが、図の計算を解説します。
直接材料費差異は、全体では-22,000 円でした。この差異の内容を分析していきます。
まずボックス図のX 軸とY 軸に実際と標準を記入していきます。
何度も言いますが、内側が標準で外側が実際です。
X 軸は材料の消費量です。
実際消費量は420Kg、標準消費量は440Kg です。
Y 軸は材料の価格です。
実際価格は1,100 円、標準価格は1,000 円です。
数値を記入できれば、後は面積を求めます。
面積の数値が数量差異と価格差異が算出されます。
数量差異の計算式は、標準単価 X (標準消費量 - 実際消費量)です。
計算すると、数量差異は20,000 円で有利差異となります。
つまり、材料の消費に関しては、標準よりも節約することができています。
次に、価格差異です。
価格差異の計算式は、(標準価格 - 実際価格) X 実際消費量です。
計算すると、価格差異は-42,000 円で不利差異です。
よって、材料価格に関しては標準よりも高くなってしまったということです。
そして、数量差異と価格差異を合計すると-22,000 円です。
念のため最初に計算した直接材料費差異と等しくなっていることを確認してください。
これらのことから「材料は節約できたが、材料費が高くなってしまったので標準原価よりも高くなってしまった」と分析することができます。
直接労務費の差異分析
次に、「直接労務費差異」を見ていきます。
直接労務費の差異は、「時間差異 」と「 賃率差異 」に分けて考えることができます。
- 「時間差異」は、作業時間による差異です。
標準よりも作業時間が多くかかった場合に「不利差異」、短ければ「有利差異」です。
- 「賃率差異」は、工員の賃率による差異 です。
標準よりも賃率が高い場合に「不利差異」、安ければ「有利差異」です。
時間差異と賃率差異は、ボックス図の面積で求めることができます。
この考え方は、材料費のときと一緒ですね(^^)
では、図の例で確認していきましょう。
直接労務費差異は、全体では-13,000 円でした。
この差異の要因がどこにあるかを分析していきます。
まずボックス図のX 軸と Y 軸に実際と標準を記入していきます。
またまた何度も言いますが、内側が標準、外側が実際です。
X軸は作業時間です。
実際時間は 220 時間、標準時間は 200 時間です。
Y 軸は賃率です。
実際賃率は 1,150円、標準賃率は 1,200 円です。
これをボックス図に記入すれば、面積から時間差異と賃率差異を求めることができます。
時間差異の計算式は、標準賃率 X (標準時間 実際時間)です。
計算すると、時間差異は-24,000 円で不利差異です。
つまり、作業時間は、標準よりもかかってしまったということです。
次に、賃率差異です。
賃率差異の計算式は、(標準賃率 実際賃率 ) X 実際時間です。
計算すると、賃率差異は11,000 円で有利差異です。
よって、賃率に関しては標準よりも節約できたということです。
時間差異と賃率差異を合計すると-13,000 円です。
最初に計算した直接労務費差異と等しくなっていることを確認しましょう。
その内訳を分析すると「賃金は安かったが、労働時間が長かったので標準よりも労務費が多くなった」と分析することができます。
試験では材料費と労務費の際が出題されます。
ポイントは
- ボックス図を書くことで、原価差異を見える化する
- 内側に「標準」、外側に「実際」を記入する
- 両方とも金額(X軸)が優先されている
といった感じです。
良く出題されるテーマなので、過去問で練習してください!